ソーシャルメディアを導入した大学教育の最前線
ソーシャルメディアを導入した大学教育の最前線
法政大学 田中研之輔
学部生講義(受講者170名)で行った「大学教育の問題点・改善点に関するアンケート調査(自由記述回答方式)」の結果から、学生への不満が大人数講義に集中していること、具体的には、「質問しにくい」「集中しにくい」「学習効果が低い」といった不満を抱えている事が明らかになった。とくに、学習意欲の極めて高い学生達にとって、大人数講義が学びの障壁となっているという看過できない事態が浮かび上がってきた。
さらに何人かの学生により詳細な聴き取りを進めていくと、「教師が一方向的に知識を伝達する教授方法が、受動的で退屈である。集中力の続かなくなった学生達が隣の学生と私語をするようになり、そうした学生達につられるように教室内が騒がしくなっていく。」という大人数講義ならではの問題点が指摘された。もちろん、大人数講義での私語に対して現場の教員は、注意を促し、それでも私語がおさまらない場合には、その学生を教室の外へ出したり、教室内が静かになるまで講義を行わない、などの対応をとっている。
だが、一方向の教授法では、学生が知識を吸収する受動的な学びはできても、それらの知識をもとに思考を深め、創造力を働かせ何かを紡ぎ出していくような主体的な学びはできない。そうした問題点を踏まえ、私は2010年4月から「ソーシャルメディアを導入した双方向教育」を試みている。初回講義で、まずTwitterの導入を提案し、法政大学での講義の質問や感想を発信・共有していく試みをはじめた。個人のツイートを集積化し、ハッシュタグ「HOSEI TWEET VALLEY #HTValley」を作成し、学びの成果をネットワーク化させてきた。
講義内での重要事項や質問等がtweetされていく。このTweet Valleyの試みは、受講学生間の意見交換や教員とのやりとり、また、異学年や他学部学生とのコミュニケーションにつながっていった。2010年7月に『ツイッター社会論』(洋泉社)の著者として知られる津田大介さんに外部講師として来て頂き、ソーシャルメディアについて概説して頂いたころから、twitterを積極的に利用する学生が増えていった。現在では、数千人のフォロアーを獲得している学生も出てきている。ツイッターの導入は、ネットワークの拡張をもたらしただけでなく、本来の意味であった、大人数講義の双方化と主体的な学びへのツールとして当初十分機能していた。
ツイッターはフォロー数を増やしていくと数百人程度のフォローアーはほぼ自動的に獲得できる。このようにフォロー数が増えてくると、各TLにも様々なツイートが並ぶようになり、授業内での双方向やりとりに適したソーシャルメディアではなかった。もちろん、リストを利用して、受講生リストやゼミ生専用のリストで関連ツイートを読むことができる。けれども、大人数講義で必要な授業内資料や補足資料等を添付したり、集積化するような機能は備えられてない。
そこで、ソーシャルメディアを導入した大学教育の新たな実践に取り入れることになったのが、facebookである。こうした取り組みが評価されて、2010年11月10日、facebook日本法人東京本社から日本国内初のモデル校として法政大学が公認認定を受けるに至った。facebookは、グループ限定公開やyoutubeやPDF資料等の添付、さらには写真や動画の添付機能も簡易で使いやすく充実している。すでに、facebook上では英語のみでやり取りをする学生の自主グループなどもたちあがり、効果的な学習が行われている。
2010年にtwitterとfacebookを大学教育の中に取り入れたことで、一方向教育から双方向教育へと講義を充実化させることができている。何より、受講学生が聞くではなく、考え、発信する主体的な姿勢で学習ができている。このような双方向教育を通じた4年間の学びは、一方向教育での学び以上のものを着実に吸収していく。大学教育の現場で一方向教育から双方向教育を橋渡しするソーシャルメディアの可能性をさらに探求していきたい。